ZEIT-FOTO kunitachiでは、楢橋朝子「Between the Lines」を開催いたします。本展では1980年代の初期作品から最新作<Fragments>までを通して、その歩みを辿ります。
楢橋朝子が活動を始めた1980年代は、日本の写真が大きな転換期を迎えた時代でした。写真は、5W1Hとしての出来事の記録ではなく、その場に存在する事物の配置や関係をとらえるメディアとして捉え直されていきます。楢橋の初期のモノクロのスナップには、偶然性を受け入れながら未知に出会おうとする姿勢がすでに表れています。1990年代に精力的に発表された<NU・E>がその名で示すように、得体の知れなさそれ自体が楢橋の写真の重要な契機となっていきます。
また、とりわけ80年代以降の作家がそれ以前の写真家と大きく異なるのは、最初の発表が雑誌等の紙媒体から空間へ、すなわち展覧会へと移行した点にあります。1990年に楢橋は自身の発表の場としてギャラリー「03FOTOS」を開設します。<NU・E>は92年から97年にかけて17回にわたりこのギャラリーで発表された作品です。時に数百枚が一度の展示で発表されることもありました。今日、私たちが手に取ることができる写真集『NU・E』は、1000点を超える膨大な写真群から編集されたものです。
2000年代には<カブキノクニ>においてカラーのスナップを発表し、改題を経て2003年に『フニクリフニクラ』としてまとめられます。どこで撮られたのかわからない光景の連続の中に、どこかノスタルジーを覚える不思議な作品ですが、これとほぼ同時期にはじまる<half awake and half asleep in the water>や、それに続く<Ever After>では、自ら水中に身を置くことで視線の位置が少なからず示され、見る者は作者の身体感覚を共有するように風景へと導かれていきました。水に関係するこれらの作品を通じて、楢橋朝子はますます広く知られるようになります。
最新作の<Fragments>は、昨年発表された<1961 There Were Standing There>に続き、父・楢橋國武が遺した写真をめぐる作品です。前作では60年代にソ連や中国で撮影されたネガを楢橋自身が選定しリプリントしましたが、本作ではアルバムやネガそのものが被写体として提示され、新たな距離の中に現れます。この変化は、これまでの楢橋の作品を知る多くの人にとっても印象的なものとなるでしょう。
個々のシリーズは独立して語られることが多いものの、楢橋の制作は、流れに身を委ねながらも流されることなく、長い時間をかけて淡々と積み上げされてきました。今日私たちが写真集として目にしているものは、その一部にすぎません。本展では、写真集未収載の作品を含め、これまで十分に紹介されてこなかったフォトグラムや稀少なヴィンテージプリントもあわせて展示します。もともと個人の住空間であったこの会場の中で、それぞれの作品群は単独のシリーズとしてというよりも、1点1点が地下茎のように互いに結びつきながら、楢橋朝子の歩みの全体像をあらためて浮かび上がらせるはずです。

<Fragments> より F1941, 2026
▼ 国立写真間 関連企画
トークイベント「 写真の現在地 」
ゲスト:林田真季(Gallery Yukihira 展示作家)
松原茉莉(museum shop T 展示作家)
楢橋朝子(ツァイト・フォト 展示作家)
藤田はるか(WATERMARK 展示作家)
2026年5月16日(土)18:00~20:00
参加費:無料
定員:20名(要予約)
会場:museum shop T

<half awake half asleep in the water> より Beppu 2003

無 題, 1990
楢橋朝子(ならはしあさこ)
東京都生まれ。早稲田大学第二文学部美術専攻卒業、学生時代より写真活動を始める。89年「春は曙」で個展活動を開始。翌年自ら発表の場として暗室も兼ねた「03FOTOS」をオープンし2001年まで継続する。97年に写真集『NU・E』、2003年にはカラーで日本国内を撮影した『フニクリフニクラ』を刊行。2000年頃よりのちに『half awake and half asleep in the water』(07年)としてまとめられ、その後も「近づいては遠ざかる」(09年)『Ever After』(14年)「Drifting but Never Sinking」(21年~)などへ続いてく水の作品の撮影を始める。これまでに国内外問わず個展や企画展、写真集などに多数参加、インディペンデントな活動を続けている。東京都在住。
